あがり症の人は、上記のメカニズムが習慣的に起こりやすくなっています。
ではそもそも、どうして人の前に立つ時に、この闘争、逃走と言った反応がおこるのでしょうか?
①トラウマ体験が関係しているケース
● 子供のころ人前で失敗をした時に、みんなに笑われてとても恥ずかしかった
● 先生にみんなの前で怒られて怖かった
● 人前で発表する時に自分だけ間違えて、すごくみじめでショックだった
こういった体験が心の傷として残り、もう二度と同じようなつらい経験をしないように、防衛反応として危険信号を身体に送り自分の心を守っている可能性があります。実際に自分は経験しなくとも人前で誰かが失敗した姿を見ただけでも、怖い記憶として心に刻まれている場合があります。
トラウマ体験から人前に立つと自動的に脳の偏桃体が不快の反応をして、自律神経の交感神経を活性化します。そして、交感神経が刺激されると心拍数や体温、血圧が急上昇するため、動悸や発汗、震えなどの症状が起こります。
②自律神経のクセからくるケース
では、子供の頃の怖い体験があると全員があがり症になるかというと、そうではありません。
人前で失敗した経験があっても、大人になってスピーチやプレゼンが問題なくできたり、人前が怖くないという人もたくさんいます。
それには自律神経系のパターンやクセが関係しているのです。
交感神経が優位になっていると、緊急時にすぐ動けるよう警戒モードになり、反対に副交感神経が優位になっていると、身体を休息させる働き、リラックスモードになります。
普段はこの2つの神経がシーソのようにバランスをとっているのですが、あがり症の人は人前に出ると交感神経が急激に活性化して、バランスがとれなくなってしまうのです。
人前で話す時に交感神経が優位になりやすいのは、その人の自律神経系のパターンやクセとも呼ばれています。
自律神経系のパターンやクセは幼児のころの養育者とのかかわりが関係しているとも言われています。
小さな子どもは、自分で自分の神経系を落ち着かせることができません。だから不安を感じて泣いた時や、自分の思うようにうまくできなかった時、失敗したと感じた時、またそれらのことを恥ずかしいと感じた時に、親に優しい言葉をかけてもらうことで気持ちがなだめられ安心し、神経が落ち着きを取り戻せるようになっていきます。こうした養育者からの同調や調整が、自己を安定化し、他者との交流の基礎となる副交感神経(腹側迷走神経系)を形成していきます。
この神経系は、お母さんのお腹にいる周産期頃から思春期頃まで発達が続き、幼児期に養育者から自分の緊張、興奮、不快感をおさめてもらい、一緒に穏やかさや安心感を味わう経験によって発達していくものなのです。
しかしながらこの副交感神経(腹側迷走神経系)の発達が不十分であると、交感神経系が優位な神経パターンとなって、あがり症の身体症状が引き起こされていきます。