あがり症を克服したい方へ

今回は人前で極度にあがってしまうというあがり症のお話をさせて頂きます。

人前でスピーチをする時に、緊張してあがってしまった
大勢の前で自己紹介をする時に、手が震えてしまった
人前で発言をする時に、頭が真っ白になってしまった

このようにあがってしまうのは誰にでも起こる正常反応です。
私たちは慣れていない事を人前でするときは、誰でも緊張するものです。
けれど、学校での自己紹介や会社の会議で意見を言うような時に、極度の緊張から赤面したり声が震えるようなことがあると、自分に自信が持てなくなったり、人前に立つこと自体が恐怖に思えてそれを避けるようになってしまいます。

 

〇人前であがると、どのような症状がでるのでしょうか。
  □ 動悸がする
  □ 手や脚が震える
  □ 汗をかく
  □ 頭が真っ白になる
  □ 喉が苦しくなり呼吸がしづらくなる
  □ めまいがする
  □ 顔がこわばる
  □ 顔が赤くなる

 

あがり症とは病名ではありません。上記のような症状が出やすく、その症状が過剰に習慣化したものを指します。
「顔が赤くなっているのがみんなに分かってしまうのではないか」「声が震えていることに気付かれるかも」「手が震えているのが分ったらみんなに笑われる」「失敗したら恥ずかしい」と考えて、自分にばかり注意が向いてしまい、この自意識がますます不安を強くしてしまいます。そしてその不安が強くなればなるほど、緊張して身体が苦しくなるような反応が起こるのです。

あがり症の人は、人前で話す前の予期不安、人前で話している時の恐怖心からくる身体反応、そして話が終わった後、うまく話せなかった自分を責めることでさらに苦しみます。

あがりが起こるメカニズム

なぜこれほどまでに人前であがってしまうのでしょうか。
あがりのしくみをご説明します。

緊張を感じる場面に立つ
⬇︎⬇︎
交感神経が優位になる(ノルアドレナリンの血中濃度が高くなる)
⬇︎⬇︎⬇︎
身体症状が起こる

緊張する場面は人によってさまざまです。
大勢の人の前、知らない人の前、または知っている人の前、異性の前で話をする、面接や会社のミーティング、朝礼の挨拶、自己紹介をするといったものがあります。
その場面で「失敗したらどうしよう」「みんなが私を見ていて恥ずかしい」「うまく話せなくてダメな人と思われる」このような思いや感情が浮かんで緊張します。

交感神経が優位になるとは・・
緊張するような場面で、交感神経を刺激する神経伝達物質のノルアドレナリンが分泌されます。そして交感神経が緊急事態に対応するよう指示を身体に発令し、心臓の鼓動を促進したり血圧を上げたりします。
ノルアドレナリンは興奮性の神経伝達物質といわれ、主な作用としては恐怖や怒り、不安、注意、集中、覚醒、鎮痛などに関係しています。
とくに闘うべきか逃げるべきかといった緊急事態の際に働きます。(闘争、逃走反応)
交感神経が優位になること自体は、何も問題はありません。むしろ脳の活動や集中力を上げてくれるので仕事やプレゼンには良いことです。
しかし、人の前という安全な場面にもかかわらず、それをストレスと感知し、過剰な反応による様々な身体症状が出ることであがり症の人を苦しめているのです。

あがりの原因

あがり症の人は、上記のメカニズムが習慣的に起こりやすくなっています。
ではそもそも、どうして人の前に立つ時に、この闘争、逃走と言った反応がおこるのでしょうか?

 
 

①トラウマ体験が関係しているケース

 ● 子供のころ人前で失敗をした時に、みんなに笑われてとても恥ずかしかった
 ● 先生にみんなの前で怒られて怖かった
 ● 人前で発表する時に自分だけ間違えて、すごくみじめでショックだった

こういった体験が心の傷として残り、もう二度と同じようなつらい経験をしないように、防衛反応として危険信号を身体に送り自分の心を守っている可能性があります。実際に自分は経験しなくとも人前で誰かが失敗した姿を見ただけでも、怖い記憶として心に刻まれている場合があります。
トラウマ体験から人前に立つと自動的に脳の偏桃体が不快の反応をして、自律神経の交感神経を活性化します。そして、交感神経が刺激されると心拍数や体温、血圧が急上昇するため、動悸や発汗、震えなどの症状が起こります。

 

②自律神経のクセからくるケース

では、子供の頃の怖い体験があると全員があがり症になるかというと、そうではありません。
人前で失敗した経験があっても、大人になってスピーチやプレゼンが問題なくできたり、人前が怖くないという人もたくさんいます。
それには自律神経系のパターンやクセが関係しているのです。

交感神経が優位になっていると、緊急時にすぐ動けるよう警戒モードになり、反対に副交感神経が優位になっていると、身体を休息させる働き、リラックスモードになります。
普段はこの2つの神経がシーソのようにバランスをとっているのですがあがり症の人は人前に出ると交感神経が急激に活性化して、バランスがとれなくなってしまうのです。
人前で話す時に交感神経が優位になりやすいのは、その人の自律神経系のパターンやクセとも呼ばれています。
自律神経系のパターンやクセは幼児のころの養育者とのかかわりが関係しているとも言われています。
小さな子どもは、自分で自分の神経系を落ち着かせることができません。だから不安を感じて泣いた時や、自分の思うようにうまくできなかった時、失敗したと感じた時、またそれらのことを恥ずかしいと感じた時に、親に優しい言葉をかけてもらうことで気持ちがなだめられ安心し、神経が落ち着きを取り戻せるようになっていきます。こうした養育者からの同調や調整が、自己を安定化し、他者との交流の基礎となる副交感神経(腹側迷走神経系)を形成していきます。

この神経系は、お母さんのお腹にいる周産期頃から思春期頃まで発達が続き、幼児期に養育者から自分の緊張、興奮、不快感をおさめてもらい、一緒に穏やかさや安心感を味わう経験によって発達していくものなのです。

しかしながらこの副交感神経(腹側迷走神経系)の発達が不十分であると、交感神経系が優位な神経パターンとなって、あがり症の身体症状が引き起こされていきます。

あがり症を改善するには

トラウマのケースも自律神経系のクセのケースも、自律神経の調整がうまくいかないことが不快な身体症状を起こす共通点になります。

神経系が活性化して緊張や興奮をしたのち、落ち着き、リラックスするということを繰り返すのを自己調整と言います。
実はこの自己調整力は誰にでもつけることができ、あがり症はこの調整をすることで改善が期待できるのです。

自己調整のトレーニング

あがり症の人は、人前で発表する時だけではなく日常生活の中でも人の目を気にしたり、過剰に心配したり、ちょっとした予定の変更にもパニックになりやすい傾向があります。
普段の生活の中で、自分の神経系を観察しながら、交感神経優位から副交感神経優位にゆるやかにシフトする練習をしてみましょう。

①自分の神経系を観察する
自分が今、警戒モード(交感神経)、リラックスモード(副交感神経)どちらが優位になっているか観察してみましょう。また、どんな時に警戒モードになりやすいかを知っておきましょう。
例)
  ● 初めての場所に行くとき
  ● 4~5人の人としゃべるとき
  ● 仕事中
  ● 美容院へ行っているとき
  ● 電車の中
  ● 人が自分を見つめているとき
  ● 一人でカフェにいるとき 

②リラックスする時間を意識的に増やす
あがり症の人は、長時間緊張していることが多いので出来るだけほっとする時間を持ちましょう。
脳内の神経伝達物質の不安や恐怖感を和らげる役目を果たすセロトニンの量を増やしていきます。
例)
  ● 好きな音楽を聴く、ハミングする
  ● アロマテラピーやマッサージを受ける(身体の緊張をほぐす)
  ● 好きな人とおしゃべりをする
  ● お笑い番組をみて笑う
  ● 植物や動物に触れる(セロトニン増加)
  ● 日光を浴びながら散歩する(セロトニン増加)

③警戒モードからリラックスモードへ切り替える練習
焦ったり、緊張した時に、警戒モードになっていることに気付きながら、自分がリラックスできるイメージや、アイテムを使って神経を落ち着かせる練習をします。
会社で緊張するという人は会社に何か落ち着くものを持っていき、それを使って練習してみましょう。
どのくらい自分が落ち着いてきたか呼吸や身体のこわばりをチェックしてみてください。
人前でスピーチをするイメージをして練習するのも良いです。
例)
  ● 広い海をイメージしてみると段々落ち着いてくる
  ● 好きな精油の香りを嗅ぐとリラックスしてくる
  ● 手触りの良いタオルを触るとほっとする
  ● 遠くを見てふ~っと息を吐くと身体がゆるむ
  ● ペットの写真や動画を見ると笑顔になる

心臓がドキドキしてきた・・・ちょっと怖いな
これは警戒モードになって、ノルアドレナリンが出ているんだ・・・
そうだ、ペットの動画を見て落ち着こう・・・
かわいいなぁ~
いつも笑えるなぁ~
ふ~~~』息を吐く
うん・・・・少し力が抜けてきたかも・・・

毎日このようなモードを切り替えるトレーニングをしてみてください。

 
 

あがり症の人にお伝えしたいこと

あがり症の人は
「大人なのに人前でこんなに震えて恥ずかしい」
「部下の前で顔が赤くなってみっともない」
「こんなこと誰にも知られたくない」
など自分を責めたり情けなく感じたりしています。
人に言えないつらさを感じてますます自分を表現することから遠ざけてしまうのです。
しかし、あがってしまう自分が悪いわけでも、ダメなわけでもありません。

ただ、自分の神経系の調整不全が起きているだけなのです。
そしてこのシステムは危険なものから自分の心を守るために作動しているのです。
緊張しても、あがってもそれをそのまま受け止めてみてください。
この自律神経系の調整トレーニングを行っていくうちに、システムが再構築され過剰反応していた身体が落ち着いてくるようになります。
そして、身体の反応の変化に伴い、目の前にいる人がただの人に見えて、怖さが自然に消えていくようになります。
ぜひ、自分の自律神経の働きを知り、自分らしくいられる心地良さを感じてみてください。

心理カウンセラー・心理セラピスト
神田よしこ

参考書籍
いごこち神経系アプローチ:浅井咲子    漫画でわかる神経伝達物質の働き:野口哲典

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